エヴァに影響を与えた名作(迷作)ロボットアニメ 『伝説巨神イデオン』 (1980年) 富野由悠季
『機動戦士ガンダム』の生みの親である、富野由悠季監督がガンダムの次に作った作品
『伝説巨神イデオン』
一部のアニメファンの間では機動戦士ガンダムを抜いて富野由悠季監督の最高傑作と名高い本作ですが、リアルロボット物のエポックメイキングな作品として今日まで長く多くの人に愛されているガンダムに対してイデオンの知名度が低いのはいろいろと理由があるからです。
まず一番大きな理由はガンダムの人気が凄まじすぎたために、その存在が埋もれてしまったこと。
そして主役ロボットのデザインがあまりにも酷かったこと、そしてストーリーが暗すぎたためにガンダムのような知名度を獲得することができなかった不遇な作品であります。
本作はテレビ版全39話と『劇場版 伝説巨神イデオン発動編』を見ないとその魅力を知ることはできません。ガンダムの場合は劇場版3部作だけでも十分に魅力を知ることができますがイデオンはテレビ版総集編の劇場版は接触編1作だけですのでテレビ版での登場人物たちの行動や考えや名シーンがごっそりカットされています。
なので初見の方は必ずテレビシリーズの驚愕の打ち切り最終回を見て、そして多くの子供たちやアニメファンに衝撃をもたらした完結編『劇場版 伝説巨神イデオン 発動編』を見てほしいです。
ん?テレビシリーズが打ち切り投げっぱなしエンドで劇場版が真の最終回って、まんま旧劇場版エヴァじゃね?と書きながら気づく私……
↑伝説巨神イデオンのデザイン。ガンダムに登場するジムという機体に似ているためジム神様と呼ばれている。
↑機動戦士ガンダムに登場する機体、ジム。
『伝説巨神イデオン』は『新世紀エヴァンゲリオン』の庵野秀明監督に大きな影響を与え、エヴァ作中にもそのイデオンに対するリスペクトが多く見受けられます。本作は分かり合えない人々の姿、そして人間の業をテーマとしえ圧倒的熱量で最後まで描き切った不朽の名作です。
・キャスト
ユウキ・コスモ
声 - 塩屋翼
本作品の主人公であり、イデオンAメカのメインパイロット及びイデオンのパイロットを務める。
ジョーダン・ベス
声 - 田中秀幸
地球連合軍ソロ星駐留空軍の士官候補生。
イムホフ・カーシャ
声 - 白石冬美
イデオンCメカのメイン・パイロット。
フォルモッサ・シェリル
声 - 井上瑤
第6文明人の遺跡を調査していたフォルモッサ・ロダン博士の娘。
キッチ・キッチン
声 - 鵜飼るみ子
キャラル星軍の高級将校の娘。壊滅したキャラル星の都市で子供たち数人と生き残っていたところをコスモに発見される。
カララ・アジバ
声 - 戸田恵子
バッフ・クラン宇宙軍総司令ドバ・アジバの次女。
ギジェ・ザラル
声 - 林一夫
ロゴ・ダウ調査隊の先発隊隊長。サビアの武人。
ドパ・アジバ
声 - 石森達幸
・あらすじ
西暦2300年。地球人類が外宇宙へ移民を開始して50年経過した遠い未来。地球人は2年前から移民を行っていたアンドロメダ星雲の植民星A-7・ソロ星で、異星人文明の遺跡を発掘。地球人類が外宇宙に進出して出会った6度目の異星人であることから、「第6文明人」と呼称された。
一方その時、伝説の無限エネルギー「イデ」の探索のために、「ロゴ・ダウ」(=ソロ星)を訪れた異星人バッフ・クランと、地球人の移民が接触。さらに、無思慮な行動で本隊より離れたバッフ・クランの貴人カララ・アジバを捜索に出た下級兵士の発砲と、両者の疑心暗鬼により武力衝突へと発展。第6文明人の遺跡は合体し、巨大人型メカ「イデオン」となった。
主人公ユウキ・コスモらは戦いを終結するべく「戦意はない」ことを示すために白旗を上げるが、バッフ・クラン社会でのそれは「お前らを地上から抹殺する」という逆の意味だったため、事態はさらに悪化することとなる。
地球人たちはイデオンで応戦しつつ、同じく発掘された宇宙船ソロ・シップに乗り込み宇宙へ逃れる。だが、その遺跡にこそバッフ・クランの探し求める無限力「イデ」が秘められており、カララを乗せたソロ・シップの脱出により、事態は局地紛争から星間戦争、そして最終的には人類対バッフ・クランの全面戦争へと突入してしまう……
(wikipediaから引用)
↑劇場版伝説巨神イデオンの予告
富野監督は伝説巨神イデオンで神のような存在を描こうとしました。そしてイデの発動というデウスエクスマキナ的な展開で物語に決着をつけます。どういうことかというと神のようなイデという存在の大きな力によって人類は全滅してしまったという、これまで積み上げてきた銀河を巻き込んだ壮大なドラマを一瞬で台無しにしかねない危険な禁じ手を使って締めくくったのです。
ギャグマンガでよく使用されている爆発オチに近い、荒い手法のように思えますが、これまで丁寧に積み上げられてきた登場人物たちの織り成すドラマが一瞬にして無に帰すカタストロフィーと無情さこそがイデオンの魅力であるように思います。
主人公ユウキ・コスモがイデの良き心を持った知的生命体を獲得するために現在の醜い知的生命体を滅ぼすという目的に気づいた時、カーシャが口にした『じゃあ私たちは何故生きてきたの』という嘆き。
カララやカーシャたちが次々に死んでいき、悲しみに打ちひしがれているコスモの正面に休む暇もなく現れるバックフランの最終兵器ガンドロワを見て『こんな甲斐のない生き方なんぞ認めない』と涙を流しながらも戦い続ける姿。
そんな登場人物たちの必死の行動が全てがイデの発動によって無に帰されるという様をまざまざと見せつけられます。
子供の首もバズーカで吹っ飛び、ヒロインのカーシャも無残な死に方をします。そこに美化された死はありません。ドラマ性も無くあっけない無機質な死です。それにも拘わらず登場人物たちの死にざまにこんなに心が揺さぶられるのは、彼らが死を迎える最期の最期まで懸命に生き延びようとしたからです。イデから存在を否定されても、事態がどんなに悪化の一途を辿っても自分たちはまだ十分に生きていないんだと運命に抗い続ける姿は惨めで儚く、哀れで美しい。
ガンダムもイデオンも年端もいかない少年少女らの戦いながらの宇宙漂流物語です。
ガンダムの場合は民間人が成り行きで戦艦ホワイトベースに乗ってあちこち漂流しながら戦うことになり、ガンダムとニュータイプのアムロレイがいるお陰で何度もギリギリのところで生き延びることができますが、ガンダムとアムロレイの活躍が目立ちすぎるがために敵から追われ続けることになります。アムロにとってもガンダムは、自分の承認欲求を満たしてくれる存在でありながらもガンダムに乗って戦うことしか自分は必要とされないという葛藤に苦しめられます。
ガンダムという兵器は『正』と『負』の両方併せ持つ存在として作中で描かれ、『正』の部分ばかりしか描いてこなかったこれまでのロボットアニメとの一線を画す大きな要素の1つとなりました。
イデオンの場合はというと、主人公たちはイデオンという存在が物語序盤から終盤まで事態を悪化させていきます。イデの力を主人公達やバッフクラン人が自分の都合で利用しようとし、イデをめぐって骨肉の争いが繰り広げられるために『負』の側面ばかりが強調されて描かれています。
両種族はイデオンによってもたらされる巨大な力で生き延びたい、復讐したい、力を得たいという欲望のためお互い歩み寄ることができず最後まで和解することがなかったために悲劇的な結末を迎えるのは当然の帰結なのかもしれません。
『機動戦士ガンダム』が宇宙に進出した人類が革新に至ることで人同士は誤解なく理解できるようになるかもしれないという希望を見せた作品であれば『伝説巨神イデオン』という作品は、人は人が本来持ち合わせている我欲や業によって互いを理解しようとすらしないがために身を滅ぼすかもしれないという、ガンダムに対するアンチテーゼをぶつけています。
前作で掲げたテーマを全部ひっくり返してみせた富野由悠季監督の本作に対しての意気込みがフィルムから物凄い熱量で伝わってきます。湖川友謙作画監督の超絶作画やドラクエで有名な、すぎやまこういちの劇伴も見どころですよ。
↑こちらの動画でもエヴァとイデオンの関係について言及されています。
名作(迷作)であり意欲作の『伝説巨神イデオン』ですが後世のアニメに与えた影響は絶大で、特に『新世紀エヴァンゲリオン』を見ていると、これイデオンオマージュだなぁと思えるシーンや設定が多く見受けられます。
現在放映中の『シン・エヴァンゲリオン劇場版』にもイデオンネタが差し込まれているかもしれませんね。
個人評価 9/10